はじめに
前回のグルコースに続き。今回は同じ単糖のD-フルクトース(果糖)についてご紹介します。D-フルクトースはフルーツや蜂蜜などに多く含まれており、甘みが強く、飲料や食品への添加物として使用されています。D-フルクトースには4種類の閉環構造異性体があり、開環構造体と合わせて5種類の構造があります(図1)。水溶液中では開環構造は少なく、β-D-フルクトピラノースの構造が主で、次いでβ-D-フルクトフラノース、α-D-フルクトフラノースの順に平衡状態で存在しています。フルクトースはグルコースと結合してショ糖(スクロース)の構造を形成しています。

図1 D-フルクトースの構造異性体
フルクトースの分析法
・酵素法
フルクトースはグルコースと一緒に測定するためのキットが開発されています。キットを使ったグルコース、フルクトースの測定はワインなどの醸造過程において実施されているようです。分析方法自体は半世紀以上前に開発されたもので、フルクトース、グルコースをヘキソキナーゼでそれぞれフルクトース6リン酸、グルコース6リン酸に変換し、その後、グルコース6リン酸脱水素酵素によりグルコース濃度を測る、その後、フルクトース6リン酸をリン酸化グルコース変換酵素で、グルコース6リン酸に変換し、グルコース6リン酸脱水素酵素を用いてグルコース濃度としてフルクトース濃度を測る方法です。試料のグルコース濃度を求め、グルコースとフルクトースを合算した値から、グルコース濃度を差し引いてフルクトース濃度を求めます。反応は以下の通りです。

図2 グルコース、フルクトース分析法
酵素を用いる方法は、発色系に持っていくことができるため、個別にサンプルを分析する機器分析に比べ、マイクロプレートを使って同時に多数の検体を分析でき、検体数が多い場合は分析にかかる時間を大幅に短縮することができます。また、夾雑物が多いサンプルにおいては、酵素の基質に対する選択性が高いため、それらの妨害を受けにくい方法といえます。NADHが340 nmに吸収波長をもつことから、発色試薬を用いずに340 nmでの吸光度測定でグルコース、フルクトース濃度を求めるのが一般的です。発色色素(色素B)を組み合わせる場合にはメディエータを介してWSTなどのテトラゾリウム塩化合物が用いられます(図2青枠部分)。
・機器分析法
機器分析は分離と検出法を組み合わせて同時に様々な化合物を一度に分析できることが特徴です。糖類の機器分析にはHPLC(高速液体クロマトグラフィー)やGC(ガスクロマトグラフィー)が用いられます。HPLCで分析する場合、糖は紫外可視領域に吸収を持たないため、検出においては主にRID(示差屈折計)が用いられます。ただ、分離をよくするための溶媒の混合割合を変化させるグラージェントと呼ばれる操作ができないこと、また検出感度が低いことが大きな欠点です。それら欠点を補うために検出器としては、酸化還元反応を行い生じた電気信号を検出するECD(電気化学検出器)があります。ECDはグラージェントも問題なく使用でき最も高感度な検出器で、RIDよりも10^5倍程度の感度があるといわれています。糖は分子内に多くの水酸基を持ち親水性が極めて高いため、HILIC(親水性相互作用クロマトグラフィー)と呼ばれる、高極性溶媒を用い分析用カラムには高極性のアミノプロピル基を修飾した担体を用いた分離が一般的です。
GCを用いる分析では、まずシリル化剤で水酸基やカルボキシル基を保護して気化しやすくする必要があります。そのためのシリル化剤には塩化トリメチルシリルやトリメチルシリルイミダゾール、ヘキサメチルジシラザンなどが用いられますが、糖の構造によってあるいは分析対象によってシリル化剤を使い分ける必要があります。シリル化されたサンプルは24時間以内にGCにかける必要があります。検出器としてはMS(質量分析器)を用いるケースが多く、分離能、検出感度ともに極めて優れた分析法といえます。この分析法は糖だけでなく脂肪酸や有機酸、アミノ酸など、基本的に誘導体化によって気化できる物質であれば分析対象となります。ライブラリーも充実していますので未知化合物の同定にも効果的で、代謝サンプルの網羅的解析にも威力を発揮します。
それ以外の方法として、石英シリカゲルロッドを使うイアトロスキャンと呼ばれる方法があります。TLC(薄層クロマトグラフィー)と原理的には同じですが、1mm径で長さ20 cmの石英ロッドにシリカゲルを付着させたもの(クロマロッド)にサンプルをスポットし、TLC同様に溶媒でサンプルを展開して分離させた後、ロッドを移動させながら水素炎に通して燃焼して出てきた炭素イオンを検出するもので、クロマトグラムとして結果を得ることができます。水素炎による燃焼によって有機物が除去されロッドが再生されるため繰り返し使用が可能です。
おわりに
フルクトースが生理的条件で開環する割合はグルコースの数百倍といわれており、アミノ基への糖化度はグルコースよりもはるかに高いことが推察されます。この糖化は、フルクトースが結合してアマドリ転移で反応が進むよりは、フルクトースから形成された3-DG(3-デオキシグルコソン)との反応によるものと考えられています。摂取されたフルクトースの大部分はグルコースに変換されエネルギーとして消費されますが、変換されないフルクトースはフルクトース-1-リン酸からフルクトース-1,6-二リン酸となり、解糖系においてピルビン酸となります。ピルビン酸から生じたアセチルCoAは脂肪酸の合成に用いられて中性脂肪の蓄積に関与するため、果物の食べすぎは体重増を引き起こします。下記の厚生労働省のページにも記載がありますので、ご覧ください。
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