シリーズ:有機分子を見る―糖③スクロース
- shiga67
- 3月18日
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はじめに
スクロースはショ糖(蔗糖)と呼ばれサトウキビなどに含まれている糖で、グルコースとフルクトースがα-1,2グルコシド結合した二糖構造の物質です。砂糖や甜菜糖の主成分で調理や様々な食品に添加物として使用されており、独立行政法人日本農畜産業振興機構によると日本での年間消費量は約180万トン(令和5年砂糖年度:令和4年10月~令和5年9月)と推定されています。海外への輸出品や海外からの輸入加工品にも含まれていますので、一概に正しい値かどうかは分かりませんが、一人当たり年間15グラムという数値となり、血糖値の急激な上昇を引き起こすため、砂糖の過剰摂取を控えるケースや甘味料の使用などによって抑制されている状況があることは確かですが、思ったほど多くないという印象です。今回はスクロースの分析法についてです。

スクロース分析法
酵素法
スクロースを加水分解する酵素は、スクラーゼ、サッカラーゼ、インベルターゼなどと呼ばれ、単にスクロースを分解する酵素という分類であったり、フルクトースを切り出す機能を持った酵素という分類であったり、スクロースのフルクトース構造を認識して切断する酵素であったりといった分類により区別されています。インベルターゼはスクロースのフルクトースを認識してα-1,2グルコシド結合を切断します。フルクトース側からみれば、α-1,2グルコシド結合はβ-フルクトフラノシド結合なので、インベルターゼはβ-フルクトフラノシダーゼとも呼ぶことができます。切断によって、被旋光度が逆転(インバート)することからその名称がつけられたようです。人の小腸内でスクロースを分解する酵素はα-グルコシダーゼで、分解する糖の中にスクロースも含まれることになります。サッカラーゼはインベルターゼとも呼ばれ、フルクトース構造を認識してフルクトースを切り出す活性を持っています。そのため、スクロース以外にもフルクトオリゴ糖やラフィノースなど、末端にフルクトースを持つ糖も加水分解します。
スクロース酵素分析法では、インベルターゼとして販売している酵素を入手し、サンプルに含まれるスクロースを加水分解して切り出されたグルコースを測定します。グルコースはグルコースオキシダーゼとペルオキシダーゼを用いて吸光度分析へつなげることができますので、サンプルに含まれるスクロース量を比色分析で求めることができます。キットを使った実際の測定方法においては、もう少し追加の操作が含まれます。それを図2で示します。糖をグルコースに変換して比色法で測定する方法については、これまで簡単にご紹介してまいりました。今回は、試薬キットにおけるスクロースの測定方法をご紹介します。

スクロースはインベルターゼでグルコースとフルクトースに加水分解されます。25℃でグルコースはα体とβ体が約2:3の割合で混在していますので、α体をグルコースオキシダーゼの基質となるβグルコースに変換する必要があります。そのため、ムタロターゼと呼ばれるα体をβ体に変換する酵素を使用します。また、フルクトースも同モル量生成しますので、これもグルコースイソメラーゼを用いてグルコースへと変換します。同様にムタロターゼを用いてβグルコースとし、グルコースオキシダーゼの反応により過酸化水素を発生させ、次にペルオキシダーゼで過酸化水素を発色反応につなげて比色法によりその濃度を測ります。比色試薬には、水溶性アニリン誘導体と4-アミノアンチピリンが用いられます。サンプルにはもともとグルコースやフルクトースが混在している場合もありますので、インベルターゼを作用させない反応を行いブランクとして差し引く操作が必要になります。また、発色は酸化反応のため、生体サンプルに含まれる還元物質であるアスコルビン酸を除く操作としてアスコルビン酸オキシダーゼによる処理も組み込まれています。
機器分析法
機器分析としては、フルクトースでご紹介したHPLC(高速液体クロマトグラフィー)やGC(ガスクロマトグラフィー)が用いられています。詳しくはフルクトースをご覧ください。
おわりに
砂糖は甘味を感じる糖の一つですが、合成甘味料と呼ばれる物質に比べればその甘味の程度は低く、例えば糖不使用と謳われている飲料にはアスパルテームやその類似物質が含まれています。以前は甘味料としてサッカリンなどが広く使用されていましたが、現在ではサッカリンはチューインガムの使用に限定されています(類似のサッカリンナトリウムは、菓子類やみそ、つけものなどへの使用が認められています)。これら合成甘味料の甘さは砂糖と比較して200倍から700倍ともいわれ、強い甘みを持つ物質ですが、その中にスクロースの一部の水酸基を塩素に変換した構造を持つスクラロースと呼ばれる合成甘味料があります。甘味も砂糖の600倍程度と強く、生体内での代謝を受けず吸収もされないため、砂糖のような血糖値の上昇や肥満につながる問題もないと考えられています。スクラロースが開発されたのは1976年で、その後、動物実験による毒性評価や生理的条件下での分析も行われた結果、摂取量の上限を細かく設定したうえで日本を含め多くの国で食品添加物としての使用が許可されています。
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