はじめに
当たり前のことですが温度は温度計で測定します。上の写真のように温度計で水槽の温度が適切かどうかを確かめることができます。また、90℃のお湯がかかればやけどしますが90℃の空気ではやけどしないなど、同じ温度でも物質が異なれば起きる現象が違います。温度とは何か、温度計は何を測っているのか、極低温はどのような状態なのか、絶対零度はあるが最大温度はあるのか、など温度に関する疑問がわいてきます。今回は温度について考えてみます。
温度を計る仕組み
温度計は様々な材質で出来ていて、例えば棒状温度計はガラス製で内部に着色した灯油が封入されています。温度が上がると灯油の液面の高さが上昇し、温度が下がると低くなります。これは、温度の変化によって、封入されている灯油の体積が温度計のガラスの体積よりも大きく変化するためです。熱による体積変化は熱膨張と呼ばれます。棒状温度計は温度変化を体積変化として捉えて数値化する装置といえます。温度計が温度を計測できるのは、温度計の灯油にエネルギーを与えて膨張させたり、灯油からエネルギーを奪って収縮させたりするからで、エネルギーを与えたり奪ったりするものは温度計を取り巻く物質です。それら物質は水温の場合は水分子、気温の場合は空気になります(正確には、測定の間に温度計と温度計の周りの分子に触れるすべての分子)。分子の持つエネルギーは分子が動くエネルギーなので、温度計の温度(温度計を保管している気温)が測りたい物質よりも低い場合は、その物質に温度計を入れると物質の分子の動きが温度計のガラスを構成している分子の動きを増加させ、増加したガラスの分子の動きが内部の灯油分子の動きを増加して次第に灯油分子の動きの平均値が等しくなってきます。分子の動きの平均値が等しくなったときの温度計が示す温度がそのときの物質の温度になります。計る物質の分子の運動エネルギーが低ければ温度計の灯油分子の運動エネルギーが計る物質によって奪い取られていきます。そのため温度計の灯油の体積が減り灯油の液面の高さは低くなります。従って温度とは計る物質の中の分子の平均の運動エネルギーで、接触型温度計で温度を計るということは温度計と物質との間で同じレベルになるまでエネルギーのやり取りを行った結果を数値で見ることということができます。
温度計に触れる分子の動きと火傷について
温度を計る仕組みから、分子が水であっても空気(窒素、酸素、水蒸気、その他のガス状分子)であっても、温度計が受け取ったり与えたりするエネルギーの大きさが同じであれば同じ温度を示すことになります。従って、90℃のお湯の中の分子と90℃の空気の中の分子は同じ運動エネルギーを持つことになります。しかしながら「はじめに」で触れたように、90℃のお湯では火傷をし、サウナなどの90℃の空気では火傷をしないのはどうしてか、という疑問がわきます。それを考える上で重要なことは分子の密度と熱伝導率および触れている時間です。水の密度は約1000 kg/立方メートル、空気は約1.20 kg/立方メートルと約830倍なので、同じ運動エネルギーを持つ分子の数がけた違いなため、それぞれの分子が皮膚の細胞に与えるエネルギー量は同じですが衝突する分子の数が違うことが分かります。また、空気の熱伝導率が水の30分の一ほどなので、皮膚に触れているお湯や空気の分子が入れ替わらないとした場合、一定時間での皮膚に与えられる運動エネルギーは空気の方が小さいことも理由の一つです。皮膚への温度が一定であれば総エネルギー量は触れる時間の長さとの掛け算になるので、それが細胞に損傷を与えるレベルの量になると火傷することになります。水蒸気が吹き付けるような状況では、皮膚表面に細かな熱水の粒子が次々にぶつかりエネルギーが供給されるため火傷を引き起こします。実際に火傷をするかどうかについては、その他の条件も関係してきます。発汗した水分の蒸発や体液の循環など、受けたエネルギーを分散させる仕組みが働くとそこからエネルギーが奪われていきますので、理論上、皮膚細胞を死滅させることができる量のエネルギーが加えられても、加えたエネルギーほどには細胞の温度が上がらず、長時間サウナで限界を超えて我慢しない限り火傷をすることはないことになります。45℃程度の低温の物質を長時間皮膚に接触させておくと火傷を起こすことがあるのは、接触している皮膚に加わった一定時間のエネルギーが限界を超えたためということになります。
絶対零度の分子の状態と一億度の粒子の状態
-273.15℃が絶対零度で、この温度は原子の熱振動が0と規定されています。外部からのエネルギーが遮断された環境で原子が動かない絶対零度の世界では時間の流れもないように見えます。周囲からエネルギーが与えられると原子や分子は動き始めます。水を例に取ると0℃まで水分子は固体状態で分子が動き、0℃を超えると固体状態から液体状態へと形態を変えます。一気圧において100℃に近づくと水の蒸気圧が大気圧を上回るようになり沸騰が始まり気体状態への変化が始まります。100℃を超えると大部分の水が気体となって容積が一気に拡大します。この場合、個々の水分子は他の空気中の分子や水分子とぶつかりながらランダムに動き回っていると考えられます。さらに温度が上昇すると分子の運動エネルギーが増加し電離し始めます。さらに高温になると陽子と電子が解離しプラズマ状態となります。一億度では飛び回る陽子の平均速度は900 km/秒、電子はそれよりも高速で55,000 km/秒と言われています(参考情報)。
分子の速度と温度について
温度は物質の運動エネルギーを測ることなので、ここでは運動エネルギーから温度について考えてみます。速度vで直進する質量mの粒子の運動エネルギーKは以下の式で表されます(粒子が回転していない場合)。
K=(mv^2)/2
物質が水とすると、水分子一個の質量mは3.0x10^-23 gで、水分子一個に一秒間に25メートル移動する量の運動エネルギーを加えたとするとその量は9.4x10^-21ジュールとなります。その場合の水18グラム(1モル量)に与える運動エネルギーは約5,600ジュールで、これは25℃の水が100℃になる運動エネルギーです。単純に計算式に当てはめると50メートルだと325℃、100メートルだと1,225℃となり、1000 mだと120,000℃となります。
おわりに
体温や気温など温度は生活管理に重要で、あたりまえのように計測しますが、温度とは何か意識しないものです。温度には絶対零度という下限があり、温度の上限はなさそうに思われますが、物質の速度は光の速度を超えることができないため、粒子が光の速度に迫る速さで動いている粒子が存在する空間の温度が理論上の上限ということになるのでしょうか。宇宙が誕生したビッグバン直後の温度は10^30~32℃といわれていますので、それが宇宙における上限とも思えますが上限はないともいわれます。また、超新星爆発で生じた衝撃波やブラックホールから放出される高速のジェットなど宇宙には物理法則が成り立たない非熱的現象があるとのことで研究が進められていますので、新しい発見がでてくるかも知れません(参考情報)。
*「^」の次の数字は指数
参考情報
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