top of page
MS

バイオフィルムー分析法

更新日:2022年11月9日

はじめに

台所やお風呂場の流しに発生する「ヌメリ」はバイオフィルムと呼ばれ、清掃が行き届かないといつのまにかヌルヌルし、放置しておくと水が流れなくなるほどに増殖する場合もあり、汚くて厄介なものという負のイメージが付きまといます。バイオフィルムについては「バイオフィルムーその役割と成り立ち」で紹介しましたが、今回は分析方法についてご紹介します。バイオフィルムの分析は、浴槽やキッチンなどの水回りに使う素材を開発する、あるいはバイオフィルムの形成阻害効果のある薬剤を開発する、有用成分としてのバイオフィルムを効率よく生産させるための条件検討に用いるなど、様々な目的での活用が期待されます。


バイオフィルムの量を測る

バイオフィルムは基本的に多糖、タンパク質、核酸などから構成されています。これらは菌が分泌するもので菌対外多糖(Exopolysaccharides:EPS)と呼ばれます。含まれる菌は様々でそれぞれの菌が生育しやすいように、また他の菌と共生あるいは競合しながらその環境に適した状態を構築しているものと考えられます。EPSの構造は菌によって異なることが知られています。そのうち多糖構造にはα-グルカン、β-グルカンなどの単一糖で構成されるホモ多糖体、二種類以上の糖で構成されるヘテロ多糖体があり、また、重合度の違いや結合の位置によっても構造が異なるため、それらが組み合わさって構成されるバイオフィルムの糖鎖構造は極めて複雑です。そのような複雑な糖鎖構造体を分析するために用いられているのがクリスタルバイオレット(Crystal Violet:CV)という化合物です。CVは菌染色に用いられる試薬で、グラム陽性、陰性判定に利用されています。CVは、トリフェニルメタン系化合物で、それぞれのフェニル基にジメチルアミノ基が付加した構造をとり、全体としてブラス電荷を持っています(下図 クリスタルバイオレット構造式)。そのため、水和によって多少水溶性がありますが、マイナスイオンがあるとイオン対を作るため染色剤として使用されます。グラム陽性菌の細胞壁にはタイコ酸、リボタイコ酸が層を形成しており、細胞壁の電荷がマイナスとなっているので、CVが結合します。バイオフィルムの糖鎖構造の中にもマイナスイオンを持つ官能基があり、また、タンパク質や核酸、および菌そのもののマイナスイオンを持つ部分と結合することによって染色されるものと考えられます。一旦結合したCVは水溶液で洗浄しても洗い流されず、アルコールなどの有機溶媒では大部分のイオン結合が外れ溶出されてきます。この仕組みを利用してバイオフィルムの量を結合したCVの量として色で測定することができます。下にマイクロプレートを使ったCV抽出液の写真を示します(下左図)。



バイオフィルムの中の菌の活性を測る

バイオフィルムの中に生菌がどれくらい存在しているのかを知ることも必要な場合があります。たとえばバイオフィルムを形成している菌に対する殺菌処理の効果を計測するケースです。生きている菌は代謝活性を持っていますので、その代謝活性を指標に菌の生存度を測定することができます。菌は細胞と同様に栄養分を取り込んで必要な有機物を作り、分裂により菌数を増やしていきます。その過程でバイオフィルムを放出し環境を整えてより安定に増殖します。栄養分が途絶えたときには代謝活性を下げて生存していきます。水が途絶えた環境ではバイオフィルムが乾燥を防ぐ役割を果たし、水や栄養が再び供給されるようになると敏感にその状況を捉えエネルギー代謝を急速に上げていきます。バイオフィルムは菌にとってシェルターのようなものなので、中にいる菌に対しては薬剤が効きにくい状態にあります。そのため、菌を死滅させる薬剤濃度域を知るために、薬剤濃度と菌の代謝活性をグラフ化します。菌の代謝活性を測るにはWSTと呼ばれる試薬を使います。WSTは水溶性テトラゾリウム塩(Water-soluble Tetrazolium Salt)で、そのうちの一つの化合物WST-8は下のような構造をしており、Mediator(電子伝達分子)を介して電子を菌から受け取り、WST-8 formazanの構造となります。WST-8は無色、WST-8 formzanは橙色で、このホルマザンの量を色で測定することにより菌の代謝活性を測定することができます(下図-同仁化学研究所ホームページより)。

バイオフィルム中の菌が損傷を受けているかどうかは、培地とWST-8試薬を加えた溶液にバイオフィルムを浸して一定の温度で一定の時間インキュベートすることで判断できます。菌が損傷を受けていて代謝活性がなければ溶液には着色が見られず、生菌が残存していて増殖可能な状態だと溶液は橙色となります。着色が見られない薬液の最小濃度は最小発育阻止濃度(MIC:Minimum Inhibitory Concentration)と呼ばれ、菌に対する薬剤の効果を比較する際に使用されます。


おわりに

バイオフィルムの構造の多様性のためにあらゆる菌叢のバイオフィルムに対する効果を見ることはほとんど不可能だと思われますが、菌種ごとで作られるバイオフィルムに対する効果を評価することは可能であるし、混合菌によるバイオフィルムに対する効果についても、生菌数との関連性を加えて解析することは可能だと思われます。このようなデータを積み上げることにより、様々な環境を模倣した分析が可能となると考えられます。弊社ではバイオフィルム関連の受託分析を行っています。お気軽にお問合せください



閲覧数:1,835回

最新記事

すべて表示

阻害活性分析 カタログ

試験概略・阻害活性分析によって分かること 各阻害活性分析について

Comments


bottom of page